家賃や保険料を年払いで節税! 『短期前払費用』の適用要件
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事務所の家賃や会社で支払っている保険料などは通常、翌月分を前月までに支払います。
会計処理上は前払費用で計上し、役務(サービス)の提供を受けた月に経費として振り替えます。
しかし、事務的な負担を軽減するために、家賃などの費用は一定の条件を満たせば、決算月に年払いして損金に算入することが特例として認められています。
この年払いできる費用は『短期前払費用』と呼ばれ、たとえば家賃の場合、1年分を一括で決算月に経費計上できます。
今回は、節税対策にもなる短期前払費用について解説します。
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収入に紐づかない重要性の低い費用への特例
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短期前払費用はあくまで例外的な措置で、特例が認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
短期前払費用として認められれば、支払い時に経費計上ができ、支払いにかかわる消費税についても決算月に仕入税額控除を行うことができます。
支払い時に損金に算入し、消費税の仕入税額控除もできれば、その年度の税金を軽減することが可能です。
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逆に、短期前払費用として認められなければ、支払い時の事業年度内で役務の提供を受けていないにもかかわらず、未提供部分の費用が課税所得に加算され、納めるべき税金が増えてしまいます。
節税対策のためにも、家賃などの前払費用を短期前払費用にするのが望ましいですが、適用には以下の要件をすべて満たさなければいけません。
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1.一定の契約に基づいたものであること
家賃であれば貸主、保険料であれば保険会社との契約に基づいたものである必要があります。
月払いで契約していたのにもかかわらず、貸主の了承を得ないまま1年分の家賃を支払ってしまうと、短期前払費用として認められません。
もし、短期前払費用として特例を使用するのであれば、前もって月払い契約を年払い契約に変更しておきましょう。
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2.当期中に支払いが済んでいること
年払い契約に変更済みであれば、実際に当期中に家賃や保険料の1年分の支払いを済ませている必要があります。
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3.支払日から1年以内に役務の提供を受けるものであること
支払いのタイミングによっては、損金に算入できないものもあります。
たとえば、3月が決算月の法人が、3月に4月~翌3月分の家賃を支払った場合は、1年以内に役務の提供を受けるという要件を満たします。
しかし、2月に4月~翌3月分の家賃を支払った場合は、役務の提供を受ける期間が1年を超えてしまうため、全額を損金として算入できないことになります。
一方、自動車の自賠責保険料についてはこの限りではありません。
3年分を一括で支払う自動車の自賠責保険料はこの要件に合致しませんが、継続的な適用を条件に、支払い時に一括して経費計上することが可能です。
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4.等量・等質の役務の提供を継続的に受けるものであること
『等量・等質』とは、同じ内容、同じ質、同じ量という意味です。
家賃や保険料、駐車場代などは、月ごとに役務の内容や質や量が変わることはありません。一方、弁護士や税理士などへの顧問料やコンサルティング料などは、毎月同じ額の料金を支払っていたとしても、月ごとに役務の内容や質が異なるため、短期前払費用として認められません。
ほかにも、従業員への前払給料や定期的な広告料、サブリースの賃借料なども、短期前払費用の対象外です。
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5.収入に紐づいている取引ではないこと
通常、事務所の家賃などは短期前払費用にできますが、借りているマンションなどを他人に貸して賃貸料収入を得ている場合などは、そのための家賃が短期前払費用として認められることはありません。
収益に直接つながる費用は、特例の適用外となります。
また、従業員から賃料を受け取っている社宅の家賃なども、短期前払費用にはなりません。
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短期前払費用は、あくまで収益に直接対応しない、重要性の低い費用に対しての特例です。
売上に直接かかわるような取引への費用や、営業費用に該当するとみられる費用などは、毎月、定額の支払いがあるとしても、短期前払費用には認められません。
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家賃や保険料などを年払いにして、1年分を経費計上できる短期前払費用の特例は、積極的に利用したい節税対策の一つです。
重要性の低い費用であるかどうかは、前払費用の金額や事業内容などから総合的に判断されるので、税理士とも相談しながら処理を進めていきましょう。
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※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。
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参考文献:https://mi-g.jp/mig/article/detail/id/33037?office=Z17DLaHtybU%3D